増える無縁遺骨/小谷みどり

東京新聞記事 2023・4・27 を転載します。

◆高齢化/親戚が引き取り拒否/納骨費用出せず

 −どんな人が無縁遺骨になるのでしょう。

 社会的に孤立した一人暮らしの人や、身元不明者がなる、という認識を改めなければいけない。総務省の調査では、無縁遺骨の八割は身元が分かっている。例えば、子どものいない夫婦の妻は、夫や兄弟姉妹よりも後に亡くなると、甥(おい)や姪(めい)が遺骨を引き取らないことが多い。

 夫と息子に先立たれたある高齢女性は、亡くなった後、夫らの墓を姪が知らなかったため、女性の遺骨は自治体の無縁納骨堂に入った。つまり、ある集団で一番後に亡くなれば無縁遺骨になる。かなり多くの人がそうなる可能性がある。

 −いつから問題に。

 十五年ほど前から兆候が出ていた。骨つぼの落とし物は電車やスーパーのトイレでも見つかるようになったし、火葬場で遺骨を持ち帰りたくない遺族も出ている。表面化しないだけで、ごみ収集に出す人や河川などに勝手に「散骨」する人がいるのが実態ではないか。

 子孫が都会に出るなどしたため、管理されない「無縁墓」という言葉は以前からあった。でも無縁遺骨の増加が問題になったのは最近のこと。生きている間から家族や親族と疎遠な人は死んだ後も無縁になる。

 どの自治体も、持ち込まれる無縁遺骨は増えている。墓地埋葬法では、遺骨の引き取り手がない場合、行政が代わりに行わなければならない。

 −なぜ増えたのか。

 一つは、見えや世間体がなくなってきたから。多くの人に、未婚や子どもがいないおじやおばがいる。以前は、甥や姪が周囲の目も気にして遺骨を引き取っていた。今では地域のつながりも世間体もなくなりつつあり、十年も二十年も会っていないおじやおばが亡くなっても、引き取らない人が多い。生前に交流があっても、納骨する墓がどこか知らない場合も多い。

 寿命が長くなった影響もある。子どもが高齢者になっても、親も生きているようになった。親子や兄弟姉妹が同居しても高齢者だけの世帯になり、認知症だったり、年金暮らしで納骨費用の捻出が難しかったりするケースもある。

 「揺り籠から墓場まで」という英国の福祉の概念があるが、日本では「死んだ瞬間まで」。法律上、遺骨は「物」なので、日本では死後は福祉の対象外。だから無縁遺骨は、所有権を放棄されている状態だ。

 −このままいけば、どうなるのでしょう。

 無縁遺骨は増えていく。都会だけの話ではなく、田舎も変化のスピードが違うだけ。周囲の人に影響されるため、いったん始まれば田舎の方が変化は速い。

 少子多死化で人口はどんどん減少する。墓の面倒を見る人が減り、無縁墓が増えていく。

◆「血縁」もはや破綻 福祉の視点で公営墓地を

 −どうすれば。

 血縁のある縦の関係で弔うという前提が破綻している現象と言える。今後は横のつながりで、福祉の観点で人の死を考えなければいけない。

 どんな人も子どもやお金の有無に関係なく、生活していた地域で安心して死んでいけるようにするのは、福祉の仕事だと思う。希望すれば誰でも入れる公営墓地をつくり、遺骨を納める場を提供すべきだ。

 厚生労働省の調査では、一人暮らしの男性高齢者の15%は、二週間で誰とも話をしていない。生きているうちから無縁のようになっている人たちもいる。墓や死者供養が大事というよりも、生きている間に誰からも気にされない人が増えている社会こそが問題。無縁遺骨の増加は、社会の縮図ではないか。