自筆証書遺言の注意点・工夫点と盲点の遺言執行者/

遺言書を作るにあたり、公正証書遺言が良いとは分かっていても、それなりのハードルの高さから、自筆証書遺言を選択される方も多いと思います。でも、自筆証書遺言もそれなりのハードルがあります。むしろ、自筆証書遺言は、遺言者が自力でハードルを越えなければならないので、コストは抑えられますが、努力は公正証書遺言よりも必要です(法的に有効な遺言書を作成すると言う意味では)。/

何に対して努力をするか

ネット上で自筆証書遺言の有効性に対するコメントは、とても否定的です。士業に相談する自筆証書遺言書の大半は、法定に無効な出来栄えとの評価です。しかし、遺言者が求めていることは法的に有効な遺言書を残すことではなく、遺言者自身のおもいを伝えたい、ということではないでしょうか。法的に有効な遺言ではなくても、相続人の皆様に思いが伝われば(法的に有効でないということを争点にしようという人がいなければ)、それはそれで、見事な遺言書ではないでしょうか。

自筆証書遺言の保管

2020年から自筆証書遺言の保管を法務局で行うことが制度化され、活用され始めているようです。

従前は、家庭内保管で、あるいは士業の人に預けたりと、いろいろありますが、廃棄された、改竄された、死亡の通知がなく公開されなかったなど様々な問題が生じました。法務局での保管により、多くの問題点が是正されていきそうです。

以下の点にご注意ください。

*法的適正は担保しません

確認されるのは法務局で保管するための様式だけで、法的なことはノーチェックです。家庭裁判所の検認は不必要ですが、そのことが法的有効性を担保するのではありません。

*申告書に記載する推定相続人は申請者の申告によります

公正証書遺言作成の際は、遺言者の習性からの戸籍を確認して、推定相続人を特定しますが、法務局では、申請人の申告だけです。したがって申請人に法定相続人に関する誤解があれば、是正されず、相続人の把握に漏れがあり、後日トラブルとなる可能性は残ります。

周知されていない遺言執行者の必要性

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために遺言者、もしくは家庭裁判所から選任される人です。遺言書に遺言執行者が選任されていなくても、遺言書は有効です。ただし、遺言書に銀行口座の相続人とされている人が口座の預金を下ろしに行っても、遺言書の提示だけでは銀行は預金を下ろしてくれません。

銀行のお願いとして下記の内容が求められます。

遺言執行者による請求意外は、相続される方全員の印鑑登録証明書が必要(三井住友銀行)

他行も同様です。

自筆証書遺言で、遺言執行者を指定している場合はまれでしょう。相続人の一人が海外在住だとどうしたらよいでしょう、可能ですが多くの時間を割くことになります。自筆証書遺言に関する情報で、遺言執行者に関する情報はあまり見かけません。相続権利関係で問題にはなりませんが、実務上は大きな問題となりますので、遺言者の皆様、ぜひご留意ください。信頼できる第三者にお願いするのが良いのですが、該当する方がいらっしゃらなければ、配偶者、もしくは他の相続人から選定となると思います。//