東京新聞 2023年2月9日の記事を転載します。/
住まいの終活について整理するため、越谷市や神奈川県居住支援協議会が作ったノート。市や県のホームページからダウンロードできる
少子高齢化や過疎化を背景に、放置された空き家が増えている。埼玉県越谷市や神奈川県などは対策の一環として、所有者が自分の家を最終的にどうしたいのか、その考えを元気なうちに書き留める「家の終活ノート」を配っている。家族で家の将来を話し合うきっかけになると好評だ。 (小田克也)
越谷市内で空き家になっているのは、高度経済成長期に建った家が多い。市の調査(二〇一七年度)で空き家は二千五十戸あり、うち三百五十七戸は管理状態が不十分。その七割は一九八一年以前の旧耐震基準で建てられ築四十年超だ。市によると、調査後に改善した空き家もあるが、新たな発生もあり、数値に大きな変動はないとみられる。
越谷市北部にあった1995年築の空き家。相続人がおらず、市が裁判所に申し立てて「相続財産管理人」が昨年処分した=同市提供
同市建築住宅課の髙森良浩副課長は以前、四十代の男性から、こう相談された。「実家には誰も住んでいない。施設で暮らす親は戻るつもりでいるが(体力的に)難しい。私は実家をきれいに保つため掃除し、近所付き合いするのが負担になっている。どうすれば…」。髙森さんは「相続後、悩んで放置した結果、空き家となったケースが多いのでは」とみる。
所有者からの相談で、放置の理由として挙がるのは「(解体などの)費用がない」などだ。市は、適正に管理されていない空き家の所有者に必要な対応を取るよう手紙を送っている。二〇二一年度は百件以上に出し、反応があったのは二、三割にとどまった。
所有者が他界した後、家族が住むのか、売却や賃貸で他人が住むのか。市は、生前のうちに考えるきっかけにしてほしいと「住まいの終活ノート」(A4判、17ページ)を昨春から配布。当初、七百六十部作ったが、すぐにはけて二千部増刷した。住まいをどうしたいかや、相続人を把握する家系図を書き込める。任意後見制度など今から利用できる制度や相談先も載せた。
婦人会で配ったところ、参加者から「親子で家の相続は話しにくい。子どもが切り出せば財産欲しさと取られ、親から言うと、病気などと勘繰られる。ノートはいいきっかけになる」と感謝された。
神奈川県や市町村、不動産の団体などでつくる県居住支援協議会もノートを配布。同会事務局の入原修一さんは「高齢者の空き家問題への関心は高い」と感じ、市町村の住宅関連の窓口だけでなく、昨年度から福祉の窓口や高齢者が訪れる地域包括支援センターでも配り始めた。
空き家は県内に四十八万戸(一八年度)ある。うち八万戸が適正に管理されていないとみられ、高齢化に伴う増加を懸念する。「家を持ったら最後をどうするか。高齢になる前に考えてほしい」と、県は若い世代に向けてノートを紹介する動画の配信も計画中だ。
◆罰則だけでなく税優遇を
野澤千絵教授=本人提供
空き家問題に詳しい明治大の野澤千絵教授(都市政策)は「家の終活ノート」を「多方面から機運を盛り上げるのは必要」と評価しつつ「住まいにも終活が必要なことが社会の当たり前にならないと解決につながらない」と指摘する。
「家をどうするかは相続された側が決めればいい。だが土地の境界線でもめているとか、住んでいる人にしか分からない問題は、しっかり引き継がないと相続された側は困る。再建築不可など売りにくい物件でも、隣地が土地を買う可能性があるかなどのご近所情報があると解決につながりやすい」と助言。
所有者不明土地問題の解消に向け、二四年四月からは、相続後三年以内に登記しなければ過料が科される。「これに併せて、相続から三年以内に家をどうするか結論を出すのが望ましい」とみる。
「国は管理不十分の空き家について、土地の固定資産税の住宅用地特例を解除することを検討しているようだ。前述の過料もそうだが、それはペナルティー的。家をたたむ場合にも税を優遇するなど所有者に寄り添う策も必要だ。両輪を回さないと解決は難しい」と話している。
<空き家問題> 総務省の5年に1度の調査(2018年)で住人が長期不在の空き家は全国約349万戸と過去最高。放置すれば倒壊や火災、不審者侵入、悪臭などが発生しかねない。15年に空き家対策特別措置法が施行され、自治体の指導・勧告、行政代執行による強制的な解体撤去が可能になった。住宅用地は固定資産税が優遇される措置が、放置空き家が減らない一因と指摘されてきた。