樹木葬が人気/

東京新聞 2023年11月23日の記事を転載

墓石の代わりに木を墓標として埋葬する「樹木葬」が人気だ。「自然に還(かえ)りたい」という人や、墓の継承者がいない人などのニーズが高い。宗派を問わず費用も安く、購入後は個人で管理する必要がないといった点も人々を引きつけている。 (米田怜央、加藤豊大)

 車が行き交う国道246号から1本道を入ると、静寂に包まれた空間が広がる。木々に囲まれた1万平方メートルの敷地に墓石が広がる「環境霊園横浜みどりの森」(横浜市緑区)。一角にある樹木葬の区画にしだれ桜1本が植えられ、周囲の芝生の下に多くの遺骨が眠る。一般的な樹木葬墓だ。

◆横浜女性 娘を縛りたくない

 区内に住む阿部文子さん(74)は「管理の手間がなく気が楽だから」と2年前に亡くなった夫を桜の下に弔った。夫婦とも古里の墓は遠く、都内で暮らす一人娘には「自分たちの墓に縛られてほしくない」。週2回は足を運び、手を合わせる。「自然に囲まれて静かな場所。いいお墓を選んだ」と笑顔を見せた。

夫が埋葬されている桜の木の下に手を合わせる阿部さん

夫が埋葬されている桜の木の下に手を合わせる阿部さん

 霊園の樹木葬は1区画15センチ四方で家族4人が眠れる。葬儀や火葬場での焼骨を終えて遺族が持ってきた遺骨を施設の人が骨壺(つぼ)から出し、朽ちる布に入れて遺族立ち会いのもと芝生の区画を掘って土に埋葬する。芝生を囲う石垣には生前の名前が順次、彫られる。

 同じ芝生の中に集合墓のスペースもあり、深さ3メートルの穴に2000体を合葬できる。納骨は遺骨の受け渡しだけで、埋葬に遺族の立ち会いはない。芝生の開口部を開けて他の人も眠る所へ遺骨を埋葬。石垣に名は彫られない。墓参りの際は双方、芝生に入れず、花壇にした石垣に花などを供えて外から故人を悼む。

 霊園の一般墓は土地と墓石で150万~640万円で、樹木葬は1区画に4人入っても100万円を下回る。集合墓は15万円。購入後の管理費もかからない。

 霊園管理会社の鈴木夏輝さんは「当初は墓を継ぐ子どもがいない人に人気だったが、子どもがいても負担をかけたくないという人にも広がってきた。問い合わせの半分以上は樹木葬だ」。客の求めで2016年に樹木葬を始めた。今は園内に3カ所ある。600区画を売り、集合墓は約200の契約があったという。

 国内では1999年、岩手県一関市の寺が土に還ることによる里山再生を掲げて始めた樹木葬。今では里山型や霊園や寺院に一角を設ける庭園型など公営、民営を問わず各地に広がる。

◆千葉市も整備 応募殺到

イロハモミジが植えられた千葉市平和公園内の合葬式樹木葬墓地の予定地。来年1月以降に納骨が始まる=千葉市若葉区で

イロハモミジが植えられた千葉市平和公園内の合葬式樹木葬墓地の予定地。来年1月以降に納骨が始まる=千葉市若葉区で

 千葉市は市平和公園(若葉区)に新たに樹木葬墓を整備し、8月に募集を始めた。単独の墓標や区画がない合葬式で生前から申し込める。「承継者がいない」「終活の準備」などのニーズから本年度の募集枠700件に3673件の応募が殺到。400枠増やした。

 イロハモミジやカツラといったシンボルツリーを墓標にして共同納骨室を設ける。今後、エリアを広げ、3万400体まで受け入れる。使用料は通常焼骨で6万円(粉状焼骨4万円)を一度払うだけだ。「緑豊かな自然環境で眠りたいという需要が高まっている」と市担当者は話す。

◆コロナ禍で人気に拍車

 「都市への人口集中や少子化、単身世帯の増加で家族の形が変わり、お墓ニーズも変わった」と、終活サポート企業「鎌倉新書」(東京都)お墓仏壇事業部の太島(おおしま)悠輔部長(33)。同社が運営するサイト「いいお墓」で行っている調査では、2009年は91%が一般墓を購入したが、19年は樹木葬が41%で一般墓27%を超え、昨年は51%で過半数を占めた。樹木葬の情報が広まったことも一因だ。注意点もある。区画ごとに1本の木を植える個別型は割高になり、合葬型では後から遺骨を取り出せない。季節で景観も変わる。「個人の思い、家族の思いを話し合うことが大切」

 樹木葬に詳しい千葉大グランドフェロー(環境学)の池邊このみさん(66)は「新型コロナ禍が樹木葬人気に拍車をかけた。帰郷できず近親での家族葬が行われ、家墓に入れるための寺での法要もできなくなり、故人や家族の思いが反映されやすくなった。花葬、音楽葬も増えた。自分らしくと思う人が墓石を立てようとはならず、金銭面からも樹木葬などが選ばれている。持続可能性が言われる。死してささやかな地球貢献をするのも一つの考え方ではないだろうか」と話す。 (星野恵一)